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〜アンチエイジングのための健康学(19)
〜
「
肥満という火中の栗」
〜
ハリネズミのような「いが」がぱくりと口をあけ、秋の美味と栄養素の詰まった実が、弾けるような顔を
覗かせている。原油と原材料の高騰、金融危機を背景とした「馬細る秋風」が吹く中、こころを天晴れ
(あっぱれ)にする縁起物の一つに栗がある。かち栗は「勝ちをくり返す」に通じることから、戦国武士の
出陣と勝利の祝いに用いられた。栗の主成分は炭水化物。種実類にしては珍しく、脂質やカロリーは低めで、
ビタミンB1やCを多く有し、渋皮にはタンニンを含んでいる。縄文時代の三内丸山遺跡から発掘された
栗のDNAは、古代人が貴重な食糧として利用していたことを物語る。先史から現代に至るまでの歴史は飢餓と
ヒの闘い。食糧が不足する状況では、摂取したエネルギーを最大限に吸収し、消費エネルギーを最小限にする
ことが、生存にとって有利となるため、この目的にかなった遺伝子の変異(倹約遺伝子)をもつヒトが多く
存在するようになった。
しかし、飽食や運動不足という時代にあってはこれが裏目となる。この遺伝子を持つヒトは、肥満や糖尿病
を発症しやすいのだ。日本人の肥満者は2300万人、このうち半数が生活習慣病を合併しているという。
好時節の食べすぎを戒める声が聞こえてきそうだ。太ってしまうのは、エネルギーを貯めこむように、生体の
シグナルが応答するから。かつて脂肪細胞は、単なる中性脂肪の貯蔵庫と思われていたが、いまや巧妙に制御
された内分泌器官であることがわかってきた。生体内のさまざまなシグナルが関与して、脂肪量を一定に保と
保とうとしているが、その仕組みが破綻すると病的な肥満に繋がることになる。
カロリー制限が、アンチエイジングと疾患の発症リスクの低下に貢献することは、多くの動物実験が証明して
いる。肥満という火中の栗を上手に拾い上げるためには、分かってはいるが容易ならざる「腹八分目」をまず
は心がけたい。
ずっしりとした重みと光沢のある栗を知人から頂戴した。日の出町で収穫されたというこの栗の皮をむきなが
ら、寺田寅彦の句を思い出した。
栗一粒秋三界を蔵しけり
種子、鬼皮、いがからなる栗の構造を、仏教の三界に見立てたのだろうか。栗の字の西は西方浄土に通じそう
だ。科学者の心の目には、小さな実の中に詰まっている大きな世界が見えていたのに違いない。
初めて挑戦した「栗の渋皮赤ワイン煮」の出来ばえは、まずまずであった。秋の味覚の楽しみ
がまた一つ増えた。
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